背景
熱交換器は、熱源と作動流体の間で熱を移動させるために使用される重要な装置であり、石油、化学、冷凍、下水など様々な産業で応用されています。このような産業用途では、熱交換器が費用対効果の高い方法でその機能を果たすことができるよう、性能と効率を考慮することが重要な要素となります。本コラムでは、様々な設計変数が熱交換器の性能に与える影響を評価します。
●解析条件
・CAD形状
初期形状は、丸パイプを持つ単純な熱交換器のモデルを使用します。
▶ シェルの直径:150mm
▶ シェル冷水入口直径:70mm
▶ 温水パイプの直径:10mm
▶ 温水パイプ間の距離:20mm
※冷水はシェルに入った後、らせんを通り反対側から出る
▲熱交換機 解析モデル
・解析条件(基準ケース)
▶ 解析タイプ :定常解析
▶ 乱流モデル :Realizable k-ε
▶ 重力 :有効
▶ 流体材料 :水
▶ 固体材料 :アルミニウム
▶ 温水流入質量流量:1kg/s
▶ 冷水流入質量流量:1kg/s
▶ 温水流入温度:95℃
▶ 冷水流入温度:20℃
▶ 流れ方向:
▶ 冷水の流向:トップダウン(上から下)
▶ 温水の流向:並流(冷水と平行で同じ流向)
▲基準ケース 流向
・性能指標
熱交換器の効率は次のように定義されます[1]:
[1] Ahmad Fakheri, Efficiency analysis of heat exchangers and heat exchanger networks, 2014, International Journal of Heat and Mass Transfer.
本コラムでは簡単のため、設計変更の影響を評価するための目標として下記の性能指標を用いました。温度降下または温度上昇の値が大きいほど熱交換器の性能が高いと考えられます。
▶ 内部配管(細い丸パイプ部)内の温水温度降下
▶ 入口―出口間の冷水温度上昇
・メッシュ設定
▶ 流体用六面体メッシュ(約200万要素)
▲流体メッシュ
▶ 固体用四面体メッシュ(約1万要素)
▲固体メッシュ
検証内容
●熱流体解析を実施し、流れ方向・流量・流体温度などの各種パラメーターを変更した場合の装置性能への影響を確認する。(前編)
●最大の熱交換効率を得るための最適なレイアウト設計を把握するため、内部パイプのレイアウト、密度、サイズについてパラメトリックスタディを実施する。(後編)
本コラム(前編)では熱交換器の形状を変えずに境界条件の各種パラメータを変数としてスタディを実施します。各種パラメータが熱交換機の性能に与える影響を示し、適切なセットアップを見つけるため、下記の合計9つのシナリオを実行しました。
●シナリオ:流れ方向の違い
冷水と温水の流向が性能に与える影響を示すため下記2つのシナリオを実行します。
※ 基準ケース 冷水流向:トップダウン(上から下)、温水流向:並流(冷水と同じ流向)
・シナリオ① 冷水流向:トップダウン(上から下)、温水流向:向流(冷水と逆行)
・シナリオ② 冷水流向:ボトムアップ(下から上)、温水流向:並流(冷水と同じ流向)
▲シナリオ①,②の流向
●シナリオ:冷水の質量流量の違い
冷水の質量流量が熱交換機の性能に与える影響を示すため、質量流量を1 kg/s~5 kg/sで変化させて下記の4つのシナリオを実行します。
※基準ケース : 1 kg/s
・シナリオ③ : 2 kg/s
・シナリオ④ : 3 kg/s
・シナリオ⑤ : 4 kg/s
・シナリオ⑥ : 5 kg/s
●シナリオ:冷水流入温度&温水質量流量の違い
冷水の流入温度、温水の質量流量の性能への影響を確認するため、下記3つのシナリオを実行します。
※基準ケース : 温水質量流量=1 kg/s、冷水流入温度=20 ℃
・シナリオ⑦ : 温水質量流量=1 kg/s、冷水流入温度=0 ℃
・シナリオ⑧ : 温水質量流量=2 kg/s、冷水流入温度=20 ℃
・シナリオ⑨ : 温水質量流量=2 kg/s、冷水流入温度=0 ℃
解析結果
●シナリオ:流れ方向の違い
※基準モデル…冷水流向:トップダウン、温水流向:並流
パイプ内部の 温度降下(℃) |
19.0 |
冷却水の 温度上昇(℃) |
23.5 |
▲温水の温度分布(カラーバー 最小値:50℃~最大値:95℃)
▲冷水の温度分布(カラーバー 最小値:20℃~最大値:50℃)
・シナリオ①…冷水流向:トップダウン、温水流向:向流
パイプ内部の 温度降下(℃) |
18.0 |
冷却水の 温度上昇(℃) |
22.8 |
▲温水の温度分布(カラーバー 最小値:50℃~最大値:95℃)
▲冷水の温度分布(カラーバー 最小値:20℃~最大値:50℃)
・シナリオ②…冷水流向:ボトムアップ、温水流向:並流
パイプ内部の 温度降下(℃) |
18.1 |
冷却水の 温度上昇(℃) |
23.1 |
▲温水の温度分布(カラーバー 最小値:50℃~最大値:95℃)
▲冷水の温度分布(カラーバー 最小値:20℃~最大値:50℃)
●シナリオ:冷水の質量流量の違い
パイプ内の温水の温度降下、冷水の温度上昇をグラフで示します。
※基準ケース : 1 kg/s
・シナリオ③ : 2 kg/s
・シナリオ④ : 3 kg/s
・シナリオ⑤ : 4 kg/s
・シナリオ⑥ : 5 kg/s
▲質量流量ごとの温度降下(左)、温度上昇グラフ(右)
●シナリオ:冷水流入温度&温水質量流量の違い
※基準ケース : 温水質量流量=1 kg/s、冷水流入温度=20℃
・シナリオ⑦ : 温水質量流量=1 kg/s、冷水流入温度=0 ℃
・シナリオ⑧ : 温水質量流量=2 kg/s、冷水流入温度=20℃
・シナリオ⑨ : 温水質量流量=2 kg/s、冷水流入温度=0 ℃
シナリオ |
基準 |
⑦ |
⑧ |
⑨ |
パイプ内の 温度降下(℃) |
19.0 |
24.5 |
10.7 |
14.0 |
冷却水の 温度上昇(℃) |
23.5 |
30.1 |
28.0 |
35.2 |
▲シナリオ⑦~⑨ 解析結果
まとめ&次回予告
本コラムでは、3DEXPERIENCE Worksの熱流体解析ロール「Fluid Dynamics Engineer」を使用した熱交換器のデザインスタディについてご紹介いたしました。
パラメータスタディにより各種パラメータが熱交換器の装置性能に及ぼす影響を確認しました。流れ方向の変更は結果において有意な差は現れなかったものの、基準ケースで最も良い結果が得られることが分かりました(基準,①,②)。また、質量流量や流入温度の変更は温度降下・温度上昇の性能指標に対して比較的影響が大きいことが分かりました。
シナリオ |
基準 |
① |
② |
③ |
④ |
⑤ |
⑥ |
⑦ |
⑧ |
⑨ |
パイプ内の 温度降下(℃) |
19.0 |
18.0 |
18.1 |
22.1 |
24.1 |
25.6 |
25.5 |
24.5 |
10.7 |
14.0 |
冷却水の 温度上昇(℃) |
23.5 |
22.8 |
23.1 |
20.0 |
18.8 |
17.5 |
17.5 |
30.1 |
28.0 |
35.2 |
▲解析結果まとめ
次回は基準ケースをベースとして、内部パイプのレイアウト、密度、サイズについてパラメトリックスタディを実施し、最適なレイアウト設計について検討します。
[From K.Okano]