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【流体】設計探査で設計空間を把握してみよう IGBT冷却用ヒートシンク形状の最適化
高性能化の宿命「熱」との戦い
電気自動車の普及や産業機器の高性能化が加速する現代において、心臓部となるパワーデバイスIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は小型化・高出力化が進んでいます。しかし、それら小型化を含む高性能化には避けられない宿命が伴います。「熱」です。
IGBTは高い電圧と電流を制御しますが、熱が生じます。この熱を適切に冷却できなければ、デバイスの性能低下、劣化、故障に繋がりかねません。IGBTの冷却を担うヒートシンク設計は、製品全体の性能と品質を左右する重要な要素です。
なぜ、IGBT冷却用ヒートシンク形状検討に設計探査が必要なのか?
ヒートシンクの冷却性能を上げようとすれば、ヒートシンクのサイズ及び重量が大きくなってしまい、「冷却性能」と「質量・サイズ」の間にはトレードオフの問題が存在するためです。
従来の設計では、設計者の経験と勘に基づき、いくつかのヒートシンク形状を試作し、熱解析を繰り返すという試行錯誤が主流でした。しかし、これでは最適な解にたどり着くまでに膨大な時間とコストがかかり、時に「これで本当に最善なのか?」という疑問が残ることもありました。設計探査で設計空間を把握することで、この疑問が解消されます。以下に実際に検証した例を示します。
解析概要
・設計課題
– 複数のパワーデバイスを有するIGBTコントロールユニットにおけるヒートシンクの設計最適化
・IGBT素子6個(計360W)とダイオード素子6個(計144W)が発熱
・発熱部の下には素子放熱用の銅ヒートシンクと冷却路が搭載
– 設計目標
・素子温度を最小化
・ヒートシンクの重量を最小化
– 設計変数(3つ)
・ヒートシンク ピン高さ
・ヒートシンク ピン間隔
・ヒートシンク ピン配置角度
・解析モデル
運転条件 |
発熱量(IGBT) |
360 W |
発熱量(ダイオード) |
144 W |
冷却液 流量 |
2.5 L/min |
冷却液 流入温度 |
65℃ |
冷却路 出口 |
1 atm |
解析パラメータ |
解析タイプ |
定常、内部流れ、熱伝導考慮 |
外部壁面条件 |
1断熱 |
・解析モデル
物性値 |
冷却液(水-グリセリン混合物) |
密度 |
1,050 kg/m3 |
粘度 |
0.0018 Pa・s |
比熱 |
3,300 J/(kg・K) |
熱伝導率 |
0.45 W/(m・K) |
ヒートシンク材料(銅) |
密度 |
8,960 kg/m3 |
比熱(温度依存) |
384 J/(kg・K) (25℃) |
熱伝導率(温度依存) |
401 W/(m・K) (25℃) |
・最適化条件
目的関数 |
IGBT最大温度(℃) |
最小化 |
ダイオード最大温度(℃) |
最小化 |
ヒートシンク質量(℃) |
最小化 |
設計変数 |
ヒートシンク ピン高さ(mm) |
1~9 (initial=4) |
ヒートシンク ピン間隔(mm) |
5~10 (initial=10) |
ヒートシンク ピン配置角度(°) |
5~45 (initial=45) |
・初期モデル計算結果
解析結果
・設計探査のサマリー
探索 |
デザイン数 |
150 |
時間/1デザイン |
2~20分 |
合計時間 |
12時間 |
デザイン数 |
フィージブル※ |
136 |
インフィージブル |
14 |
エラー |
0 |
※フィージブル:制約条件を満たす場合
インフィージブル:制約条件を満たない場合
・計算に用いたメッシュ
– ヒートシンクピンの間隔(流路幅)に応じて変更
– FLOEFDのローカルメッシュ>流路分割機能を使用
【ランクについて】
・ランク1:目的関数の目指す方向に最も張り出しているデザイン=パレートフロント
・ランク2:ランク1以外のデザインで最も張り出しているデザイン
・ランク3:ランク1、ランク2を除いたデザインで最も張り出しているデザイン
・多目的最適化の結果、ランク1で表されるデザインがが最も良いデザインの集合と分かりました(パレートフロント)
・これらを見ながら、温度と質量どちらを取るのか、最終的にデザインを選びます。
下に3パターンの結果を示します。
下図のように同程度の性能(質量と最大温度が同程度)の一方で、デザインは大きく異なるようなものも発見することができました。
まとめ
設計探査を用いることで、初期デザイン周辺のデザインを広く探査することができました。「温度制約をギリギリ満たし質量が小さいデザイン」、「温度制約を余裕をもって満たすが質量が大きいデザイン」、「温度と質量をそれぞれある程度両立させるデザイン」等様々なデザインを知るすることができました。設計探査を行うことで、より良い性能を追求できるのもありますが、現行のデザインがどのような設計空間にいるか把握できるのは設計探査のメリットの一つといえるのではないでしょうか。
[From T.Okamoto]
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設計探査ソリューション | Simcenter HEEDS
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