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技術コラム

【粒子法】Vol.21 動的接触角を考慮した液滴流れのシミュレーション

2023年07月06日

概要

粒子法流体解析ソフトウェアParticleworks バージョン8.0に新機能として追加された動的接触角の設定機能を使用して、傾斜を流れ落ちる液滴挙動シミュレーションを実施しました。今回の計算結果より、動的接触角を考慮することで液滴挙動が実現象と良好に一致することが確認できました。

緒言

そろそろ梅雨明けの季節となりますね。みなさん降雨の際などに、雨粒が傘や窓ガラスに濡れ広がらずに、はじかれて流れ落ちる様子を見かけたのではないでしょうか。これには、固体表面と液体の濡れ性が関係しています。濡れ性を評価することは、固体と液体が接するあらゆる工学的プロセスにおいて非常に重要な項目の一つです。

濡れ性は液滴が固体表面と液滴のなす角度である接触角により表されます。液滴が固体表面で静止している場合、接触角θsはヤングの式と呼ばれる表面張力および界面張力のつり合いの式により表されます。



ここでσSG、σSLはそれぞれ固-気、固-液の表面張力、σLGは液-気の界面張力です。接触角が小さいほど濡れやすい、接触角が大きいほど濡れにくいと考えられます。

図1 静止している液滴の接触角

ただし、前述の接触角は液滴が静止していることが前提です。液滴が固体表面で移動している場合、液滴の接触角は静止した状態の接触角から変化します。このように、液滴が固体表面を動いている際の接触角を動的接触角と呼びます。動的接触角は、移動する液滴の前進する方向の接触角である前進接触角θadv、反対側の接触角である後進接触角θrecにより表されます。

図2 移動している液滴の接触角(動的接触角)

この度、粒子法流体解析ソフトウェアであるParticleworksはバージョン8.0がリリースされ、動的接触角を考慮した計算モデルが実装されました。以前のバージョンでは、静止した場合の接触角を考慮した計算モデルのみの実装であったため、解析が難しい現象もありました。今回のコラムでは、Particleworks バージョン8.0に新機能として追加された動的接触角の設定機能を使用して、傾斜を流れ落ちる液滴挙動シミュレーションを実施しました。また、動的接触角を考慮した計算結果、動的接触角を考慮しない計算結果および実験結果[1]との比較を行いました。

方法

Xiaomei et.al.の実験[1]をベースに検証を行いました。傾斜角50度の斜面に対して33μLの水滴を落下させ、水滴が滑り落ちる現象を考えます。なお、斜面の物性はパーフルオロオクタデシルトリコロールシラン(PFOTS)を表面にコーティングしたシリコンウェーハとしました。

図3 解析対象[1](傾斜角α=50°)

物性値として、下記の表に示す水の一般的な物性を使用しました。前進接触角θadvおよび後進接触角θrecはXiaomei et.al.が測定した値を使用し、接触角θsは次式より算出しました。



表1 水の物性値



また、解析条件は下記の通りです。重力加速度は、xy平面上に置いた平板を50°傾けたことを表しています。

表2 解析条件



解析ケースは、動的接触角を考慮したケース(DCA_on)と動的接触角を考慮しないケース(DCA_off)の2ケースをとしました。Xiaomei et.al.の実験結果と2ケースの解析結果との比較を行いました。

結果

Xiaomei et.al.の実験における液滴挙動を動画1に示します。また、Particleworksのシミュレーションにより得られた液滴挙動の結果を動画2に示します。

動画1 液滴挙動(Xiaomei et.al.の実験結果)

動画2 液滴挙動(左:DCA_on、右:DCA_off)

動画2から、定性的に動的接触角を考慮したDCA_onのケースは動的接触角を考慮していないDCA_offのケースと比較して、滑り落ちる速度が緩やかであることが確認できました。
図4にDCA_on、DCA_offおよび実験における、液滴の移動距離(Slide length)と液滴のその時の平均速度(Average velocity)の関係を示します。

図4 液滴の移動距離と液滴のその時の平均速度の関係

図4より、DCA_offでは実験値と結果が乖離していましたが、動的接触角を考慮したDCA_onでは実験値と良好に一致していることが確認できました。

結語

今回のコラムでは、動的接触角を考慮した液滴挙動のシミュレーションを実施しました。動的接触角を考慮しなかった解析結果は実験値と挙動が乖離していましたが、動的接触角を考慮することで実現象と良好に一致することが確認できました。
Particleworksを用いて動的接触角を考慮したシミュレーションを実施することで、より様々な現象に対して評価できることが期待されます。

[From Y.Yamanaka]

参考文献

[1] Xiaomei Li, Pravash Bista, Amy Z. Stetten, et.al., Spontaneous charging affects the motion of sliding drops, Nature Physics, 2022, 18, pp. 713–719.

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