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人体とスマートフォンの熱流体解析

概要

今回は、熱流体解析ソフトSimcenter FLOEFDを使用して、人体の発熱とスマートフォンの発熱を考慮した熱流体解析事例を紹介します。スマートフォンのみの場合とスマートフォンが手のひらに乗っている場合において、それぞれの温度がどのように変化するのか検証しました。

背景

スマートフォンは私たちの生活に無くてはならないツールの1つです。5G通信の普及によってスマートフォンは益々高速通信が可能になっています。また、腕時計型のウェアラブル端末も後を追うかたちで高機能化しており、これから先それらのデバイスは私たちの生活とより密接になっていくことが予想されます。
一方で、スマートフォンなどの電子機器の高性能化は発熱問題との戦いでもあります。例えば、5G通信はこれまでの4G通信に対して発熱量が指数関数的に増加しています。また電子機器内部の半導体は、温度が上昇するほど寿命が短くなることが知られており、いかに適した放熱を行えるかが安定した利用と性能の発展には重要です。またそのような背景から、電子機器内部の温度管理について様々な規定が存在しています。
ところでそのような端末は長時間人体に接した状態で使用するため、実際には人体の発熱の影響も受けることになります。しかし、実験的制約の問題などから、解析時に人体と電子機器双方の発熱を同時に考慮した調査はほとんどありません。今後のウェアラブル端末の発展を考慮すると、人体からの熱の影響も無視できなくなると考えます。
そこで今回は、FLOEFDを用いて、スマートフォンが手の平に乗っている場合での手の発熱の影響を検討します。また、スマートフォンのみの場合と比較して、スマートフォンの温度変化にどのような違いがあるのか検討します。

解析概要

手のモデル
著者の手をSOLIDWORKSで簡易的にモデル化しました。手の代表長さは図に示す通りです。


図1,2:手のモデル


体温依存の非定常の発熱量を定義するために、Pennesの生体内熱移動方程式を用いました。
右辺第2項は代謝による発熱を、右辺第3項は動脈と組織の熱交換を表しています。各パラメータの説明を下表に示します。

また、手が温度を知覚する受容体は表皮より内側の真皮に存在します。そこで、表皮から真皮への伝熱をモデル化するために、表皮の部分に熱抵抗を設定しました。手の初期温度は36℃に設定しました。

スマートフォンのモデル形状
スマートフォンのモデル形状を図3,4に示します。また、スマートフォンの内部素子に対して、発熱量を図5と表2のように設定しました。

図3,4:スマートフォンのモデル
図5:発熱量が割り当てられている要素


表2:発熱量の割り当て表

この発熱量はスマートフォンが高出力運転を行っているときの発熱量に対応しており、本解析では、終始高出力運転を仮定しました。(実際のスマートフォンでは温度センサーの制御によって、温度上昇を防ぐための動作制限がかかり発熱量は減少します。)また、スマートフォンの初期温度は20℃に設定しました。

図6:全体のモデルの形状


全体のモデル形状を図6に示します。図のように、スマートフォンは手の平の上に置かれた状態で解析を行いました。また、周囲環境は空気で満たされており、その温度は電子機器の発熱に関する規格に基づいて35℃に設定しました。また、手のひらから甲の方向に重力を設定しました。

解析結果

スマートフォンを手のひらに置いた場合の温度変化

図7:手のひらの温度変化
図8:スマートフォン表側の温度変化
図9:スマートフォン背面の温度変化
まず初めに、スマートフォンを手に置いた状態で、60秒発熱させた場合の結果を図7~9に示します。図7より、60秒後に手のひらの平均表面温度は39℃となり、スマートフォンが接している部分は接していない部分に比べて4℃程度高くなりました。
また、図8より、スマートフォンの表面温度はCPU直上で43℃になりました。図9より、スマートフォンの背面はシミュレーション開始直後、手からの熱移動で温度上昇したことが分かります。

スマートフォンのみの場合の温度変化
続いて、大気中にスマートフォンのみが存在する状態で、60秒発熱させた場合の結果を図10, 11に示します。
図10:スマートフォンのみでの温度変化(表面)
図11:スマートフォンのみでの温度変化(裏面)
スマートフォン表面の温度は最大39℃、背面の温度は最大38℃ほどとなりました。スマートフォンを手に乗せていた場合と比べて、表面は約4℃、背面は約2℃低い結果となりました。

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考察

FLOEFDの熱のバランス機能を用いて、伝熱について考察します。

スマートフォンを手に乗せた場合でスマートフォン表面温度が高くなる理由
スマートフォンを手に乗せた場合では、熱が手のひらからスマートフォンの裏側、そしてスマートフォンの中を通して最終的に表側に伝わると、一見思われます。しかし、図12のように、手のひらからの熱はメイン基板までしか熱伝導しませんでした。

図12:手のひらからの熱伝導
これは、図12の充電部品やメイン基板の熱伝導率が非常に低いためです。熱のバランス機能からは、スマートフォン内部の流体によってスマートフォン表面に伝熱したことが分かりました。スマートフォン内部の半導体の発熱、および熱移動は、手の有無に関わらず同様です。しかし、手がある場合には、図13に示すように手の発熱によって内部流体が持つ熱量が0.5Wほど大きくなりました。そのためスマートフォン表側への伝熱量も、手が無い場合に比べて大きくなったと考えられます。
図13:スマートフォン内部における熱移動


バッテリー温度の違い
続いて、バッテリー温度の違いについて考察します。
手にスマートフォンを乗せた場合の方が、バッテリーの最大温度は3.7℃高くなりました。この理由について説明します。熱のバランスの結果を整理したものを図14に示します。左側がスマートフォンと手の場合、右側がスマートフォンのみの場合であり、上から下に時間軸を設定しています。
図14:スマートフォン裏面に起因する熱移動の関係
図14の赤丸のように、運転初期には大量の熱が手のひらからケース、バッテリーへと伝熱したことが分かります。そのため、手のひらに乗せた場合でバッテリーの温度上昇が大きくなったと考えられます。


ただし、今回の解析では、周囲の流体温度を35℃、手の温度を36℃と設定しているため、スマートフォンのみの場合でも周囲環境の流体からケースに伝熱する可能性も考えられます。なぜ、手のひらとの熱移動の方が大きいのでしょうか。
発熱しているバッテリーからスマートフォンのケース、手のひらへと熱移動する現象は「熱伝導」、ケースから直接空気に放熱する現象は「熱伝達」です。そこで、本解析におけるそれぞれの熱移動について、熱抵抗で評価しました。

スマートフォンのケースの厚さは0.3mm、ケースの素材はアルミニウム合金(熱伝導率:140 W/m/K)であることから、次の式でケースの熱抵抗を評価することができます。
一方、ケースから空気への熱伝達の熱抵抗は、水平平板の自然対流熱伝達の式から熱伝達係数が3.43 W/m2/Kであること、スマートフォンの裏面の表面積が4036.48 mm2であることを踏まえ以下となります。
以上より、対流熱伝達の方が熱伝導よりも、熱抵抗が約3倍大きいという結果になりました。言い換えれば、熱が3倍伝わりにくいということになります。そのため、手のひらとの熱移動の方が、空気との熱移動よりも促進されると考えられます。

まとめ

今回は、手の発熱とスマートフォンの発熱が、お互いにどのように影響するのかについて解析しました。スマートフォンを手に乗せた場合では、手からの熱が内部流体を介して直接スマートフォンの表面に伝熱することで、スマートフォンのみの場合よりも温度が高くなることがわかりました。また、バッテリーや裏面ケースに関しても、手からの熱伝導によって温度が高くなることがわかりました。
電子機器の発熱に関する規則では、43℃で8時間持ち続けると低温やけどするとされているので、皆さんも熱いと感じたら肌身から離しましょう!また充電しながら動画を見るなど、負荷のかかる使用方法は控えましょう!

A バッテリー 1.6W
B 加速度、GPS(の合計) 0.5W
C CPU 1.8W
D カメラ関係 0.2W
E 無線 0.8W
F 電源 0.5W
合計発熱量 5.9W
q_m 代謝による発熱量(W/m^3)  34000
ρ_b 血液の密度(kg/m^3)  1003
w_b 単位体積当たりの血液灌流量(1/s)  -0.006
c_b 血液の比熱(J/(kg∙K))  4200
T_b 血液の温度(℃)  36
T 人体の温度(℃ ) 計算値
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